Modern Device Gutter

わたしは北海道に住むmizoreと申します。機械と機械と機械が好きです。

VALUという得体の知れないとてつもなく革新的なサービス

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アメリカにはベースボール・カードというものがあります。これは特定の野球選手のカードが駄菓子屋やコミックブック店で販売されているものです。自分の好きな選手のカードなら(何としてでも手に入れたい!)と思うかもしれませんし、(あのカードは、実は希少なんだ)という事情を分かっている人は、その希少性に目を付けてベースボール・カードを買い漁ります。たんなる厚紙に野球選手の肖像が無造作に印刷されただけのものなのに、「応援したい!」とか「ファンだ!」とか、本来のカードのコスト(=限りなくゼロに近いです)とは甚だしく乖離した、べらぼうな価値がつけられることも珍しくありません。そのベースボール・カードを持っているから、その選手と握手できるとか、その選手の年棒の何%を自分が分け前として貰えるという約束が無いにもかかわらず、見る人が見れば(=つまりカード・コレクターにとっては)厳然とした価値が存在するのです。

何の話でしょうか。ベースボールカードの話ではありません。新たな謎のサービスVALU(読み方:バリュー)についての話です。そのサイトへ行くと「あなたの価値を、VALUでシェア。」と書いてあります。VALUビットコインを用いたマイクロトレード・サービスだと規定されています。それで結局VALUとは何でしょうか?VALUとは、個人の価値を、まるで株式会社のようにトレードするサービスです。ここで重要なのは、あたかも株式のようだけれど、株では無いという点です。この箇所まで読んで、みなさんは(なにがなんだか、わからない!)と思ったことでしょう。簡単に詳しくご説明します。

まずVALUが株じゃない理由を述べます。いま株式とは、株式会社の構成員である株主の地位のことを指します。株式は均一に細分化され、割合的単位の形式をとっており、株主が会社に対してもつ権利、義務は、この割合的単位、すなわち株式の数に応じて認められます。いま仮にA株式会社の発行済み株式数が1万株だとします。すると、その1株の持つ権利、ないしは義務は、どれも平等だということです。これを1,000株持っている人は、10株だけ持っている株主より100倍発言権が大きいということです。この「発言権」を、もうすこし精密に規定すると自益権(じえきけん)と共益権(きょうえきけん)の二つに分解できます。自益権は、会社が利益を出し、それを株主に配当として配るのなら、株主が応分の配当の分け前にあずかることが出来る権利です。「A株主は僕の友達だからたくさん配当を与え、B株主は気に食わない奴だから少しの配当にする」という手加減や差異をつけることはできません。「均一」というのは、そういう意味です。共益権は、株主が議決権を通じて会社の経営に物申す権利を指します。(ここまでの説明は商法第2編会社第4章株式会社第2節株式199条から230条の9に記載されています)

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ところでVALUは個人の価値をマイクロトレードするわけだから、個人は株式会社ではありません。だからVALUの1株、つまり1VAは株式ではないのです。利益の山分けにあずかる権利も無ければ、経営に口出しする権利も無いのだから、その本源的価値(intrinsic value)はゼロです。それではVAは無価値か? と言えば、それはそうではありません。「それを見る人、それを欲しいと思う人が、自分で払ってもいいと思う値段を、勝手につける」という行為により、本来無価値なものに高い値段を払う人が出てきても、それは異常ではないし、違法でもないのです。

VALUは取引所でしょうか?さて、VALUのウェブサイト上ではVAが売り買いされています。するとそのトレードの様子を見て(ひょっとしてVALUって、取引所のようなもの?)という疑問が湧きます。VALU証券取引所ではありません。なぜなら、証券取引法の定義する証券取引所とは、有価証券の売買を目的として設立されたものを指すからです。ではVALUをもっと厳格に法律で縛るべきなのでしょうか?総合して考えるとVALUをもっと厳格な法律で縛るべきではないと結論できます。なぜならVALUはベースボール・カードのようなものを売買しているだけであり、それを規制によりがんじがらめにするのなら、ベースボール・カードを売っている駄菓子屋やコミックブック店も証券業登録しなければいけなくなるからです。またVALUは全く新しい「破壊的イノベーション(disruptive innovation)」です。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授はハードディスク・ドライブの市場で起きた事などを例に出し「破壊的イノベーションが出現した当初は、だれもが(なんだかチンケで安っぽく、不完全な製品だな)と思いがちだ」と説明しています。VALUも株式市場の関係者や機関投資家から見れば(なんだい、こんなカスみたいなもの!)と馬鹿にしたくなるのですが、そういうミョウチクリンなものを暖かく見守り、はぐくんでゆく態度を、日本も早く身につけなければいけません。つまり「過剰規制」は良くないということになります!最後に、これはVAを出す人(=VALUではそれをオーナーと呼んでいます)に釘を刺しておきます。証券取引法58条では、何人たるを問わず(=すなわち証券会社だけじゃなく、VALUオーナーも)、有価証券の売買その他の取引等(=VALUはこれに該当)を誘引する目的をもって虚偽の相場を利用する、誤解を生ぜしめる表現、重要な事実の表示の欠落などの詐欺的行為は禁止されています。また証券取引法125条1項4号~7号では「馴れ合い売買」が禁止されています。VALUは株ではありません。有価証券でもありません。投資でもありません。これはビットコインなどの仮想通貨にも当てはまります。だから「リターンがある!」、「利益」、「投資」などの単語を、VALUや仮想通貨に関するエントリーで使用するのは虚偽の誘導に該当します。

VALUは証券会社とも言えるのでしょうか?VALUは証券会社ではありません。なぜなら証券会社は有価証券の売買、取次、引受け、売り出しなどをやる企業を指すからです。それでは「有価証券」って、なに? ということが気になると思います。証券取引法における有価証券とは、国債、地方債、社債、株券、投信、貸付信託受益証券などを指します。いま上で「VALUは、株じゃない」ということを説明したので、VALUは有価証券に該当しないのです。だからVALUは証券会社ではありません。補足ですが有価証券なら募集、または売出しの際、届出が必要になります。でもイケダハヤトや堀江貴文が自分のVAを売り出すにあたって「当局に届け出ました!」というようなツイートは、僕は見てません(笑)なぜなら、その必要が無いからです。株じゃないから!

さらに言えば、それが有価証券なら、企業内容の開示義務が発生します。有価証券報告書を提出する必要が発生するのです。ところで証券業は免許(ライセンス)を受けた株式会社でなければ営むことはできません。この免許は、とても敷居が高いです。(この部分に関連する法令は証券取引法第三章第二十八条です)証券会社は原則として兼業が禁止されています。(第四十三条)だからVALUの人気を横目で見た証券会社が(わが社もVALUのトレーディングに参戦しよう!)と思っても、参入できません。なぜなら証券会社は証券業以外の業務を営むことはできないからです。ただし公益、または投資家保護に支障をきたさないと認められるものについては当局の承認を受けた上で参入することはできます。しかしこの経営の多角化が、顧客資産(ビットコイン)の紛失による経営内容の悪化とか、風評被害などのカタチで証券会社の顧客資産をリスクに晒すようなら、そんなビジネスへの参入は問題化します。(僕が監督当局なら、免許制である証券業の業者に対し、未だどんなリスクが隠れているかわからないVALUのようなビジネスに許可を与えることは、しません!)なお、平成29年3月24日に「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」が出され、仮想通貨を扱うことは原則OKになりました。これは登録制です。しつこい説明をすると「免許制」と「登録制」では「月とスッポン」くらい違いがあります。先ほど述べたように、免許制はハードルが高いです。それに比べて「登録制」は、届ければ良いだけです。

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VALUについて考えれば考えるほど謎の深まる人も多いことでしょう。今後実際の経験を通して簡単に理解できるようになる時代が来るかもしれませんね。